長嶺ヤス子、喜寿を舞う。 東日本大地震発生から間もない2011年の春。直腸癌に倒れた長嶺ヤス子は、病室のベッドにいた。しかし、彼女の表情は不思議と穏やかだった。そして、手術を経て退院からわずか一ヶ月後、ステージには、華やかに舞う姿があった――。映画は、一人の天才の生き様をとおして、「生きるとはどういうことか?」と問いかける。

本作は、世界的なトップダンサーであり、日本のフラメンコの先駆者、長嶺ヤス子のいまを見つめる。自由奔放な舞姫は、現代という時代をどのように見つめているか? 烈しい舞台とは対照的に、100匹以上もの捨て猫や犬と暮らし、静かに油絵を描き続ける日常とは? いま、その栄光と葛藤の歴史が、彼女自身の言葉で語られ、躍り続ける肉体そのものが、その歴史を表現する。
監督は『ただいま それぞれの居場所』『季節、めぐりそれぞれの居場所』『無常素描』など、制度に縛られない人々の営みを描き、文化庁映画賞文化記録映画大賞、山路ふみ子福祉賞を受賞した大宮浩一。

ダンス!ダンス!ダンス!

昭和35年、当時二十代の長嶺ヤス子が単身スペイン・マドリッドへ渡ったころ、フラメンコはスペイン人が踊るものだった。それは彼女にとって「伝統」「民族」という越え難い壁だった。しかし、その葛藤が独自の表現を生み、やがて栄光が彼女を包む。「イグナシオ・サンチェス・メヒーアスへの哀歌」で文化庁芸術祭優秀賞と舞踊批評家協会賞、「サロメ」でゴールデン・アロー賞、「娘道成寺」で文化庁芸術祭大賞。ニューヨーク・リンカーンセンターの熱狂。そして、旭日小綬章受章――。和楽、ロック、サンバから読経まで、他の追随を許さない“長嶺ヤス子の世界”が拓かれていく。

犬と猫と長嶺ヤス子

100匹以上の捨て犬や猫と暮らすため、彼女は故郷に近い福島県猪苗代に家を借りている。動物たちといるときは、ステージとは別人のよう。ときには友人の家に泊まり込んで、老犬の世話をしている。それはなぜか?

ヌードのフラメンコ

毎年個展も開催している油絵には、煌びやかな衣装を脱ぎ捨てたヌードのフラメンコを描いたものがある。彼女は語る――フラメンコは美しいものではなく、人間の醜さや本性の表現だから、絵でもそれを描く。それができるのは踊りの身体感覚が沁み込んだわたしだけ。